進化というナノテク

タンパク質は,精密な「かたち」をもち,一分子で高性能な機能を発揮できる究極の分子ナノマシンです.その精細な構造や精密な機能も興味尽きませんが,当研究室が注目するのは,その最も特筆すべき特質である「進化能」です.進化(evolution)という化学工学プロセスをうまく設計することによって,タンパク質の機能は,いまや大幅に我々の望む方向に改良・改造できるようになりました.最近は,新しい分子機能をゼロから創発したり,既存の酵素・タンパク質に新機能を追加で埋め込む(embed)ことも可能となってきました.我々は,すでに産業界に多大なる貢献をし始めている「進化分子工学(Directed evolution)というプロセスをさらに高速化・万能化し,タンパク質というソフトナノマテリアル素材の汎用的な加工技術(ナノテク技術)に昇華させる研究を行っています.

超・化学への道

〜分子協働の進化デザイン学〜

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一分子で全ての分子機能を全うできる究極のメタ・マテリアル=タンパク質.しかし彼らに「協働」させたら,さらに驚くべき機能を発揮します.複数の酵素に協働させ,多段階の有機合成をワンポットで実現する研究,化学情報の検知から遺伝子発現までの多段かつ複雑な情報処理機能を創出することもできます.ただし,このような「分子のチーム」に非凡なパフォーマンスを発揮させるためには,チームメンバー間の協調と相互扶助を高度に実現させる必要があります.さらには,こうして創り上げた「協働機能」を細胞(分子のるつぼ)にコンフリクトなく入植させるためには,数千〜数万の「先住民」ソサエティ」=代謝・情報ネットワークへの適応・協調・進化が必要とされます.

         

Sociologia molecularis, fiat!

  

超・生命への道

人類は自然界からリソースだけではなく多くの知恵を受け取ってきました.化学者も例外ではありません.生命分子系から,Chemistsは多くの分子戦略を教わり続けてきました.その一方で,クリック反応,PET,防弾ガラス,メタマテリアル,レアメタルや各種カップリング反応,ノイマン型コンピュータなど,科学者たちはすでに,地球生命圏にはみられない無数の人工マテリアル/非天然反応/プロセスを独自に発明しています.しかし我々は,これらをただ独占しあれだけ教えを得てきた自然界に教え返す手段を持ちませでした.なんたる不平等!

そこで我々は,人類の積み上げてきた工学技術とケミストリーを,生命が理解・実践できる唯一の言語,「DNA言語」にEncodeする研究を行っています.全地球生命体で分子技術をシェアし,生命の化学システムとしての可能性を拡張したい.物理化学則に逆らわないかぎり,生命は,あらゆるケミストリー持って良いのです.尊師曰く,「地球生命史を歴史一回性から解放せよ」.化学が主導する聖域なき「メタ・生命学」によって,宇宙船地球号の持続と平和に貢献します(多分).